ハンコにも色々あります

ひとくくりに“ハンコ” “印鑑”と言っても、使い道や製造方法によって様々な商品があります。

浸透印(シヤチハタ)

一番身近な物は、“シヤチハタ”の名前で呼ばれるネーム印でしょうか。宅配便の受け取り、町内会の回覧板、職場で確認済みの印にと、活躍の機会が多いハンコです。朱肉やインクを毎回付けなくても連続して捺印できるハンコを、浸透印と言います。“シヤチハタ”というのは実は、この浸透印最大手のメーカー名で、もちろん他にもメーカーはいくつもあります。固有名詞が一般名詞化してしまった例ですね。

あれ? チハタじゃないの?

いいえ、チハタです。大きい「ヤ」です。メーカーさんも強調しているので、覚えてあげてください。

なお、各メーカーによってインクの成分が全く違うため、補充インクは必ず浸透印本体と同じメーカーの純正品を使用してください。同じメーカーでも、“浸透印のインク”と“スタンプ台のインク”は別物です。異なるインクを混ぜると化学反応が起きてインクが固まるなどし、最悪の場合、浸透印本体がダメになってしまいます。

ゴム印(ゴム判)

仕事の際には、“ゴム印”を使う方が多いでしょう。会社名や部署名、住所を封筒に押したり、書類に「承認済み」とか「処理済み」最近では「リユースのため裏面を再利用」という物も。ゴム印の製法には、昔ながらの手彫りの他に、溶かしたゴムを型に流し込んで作る方法や、レーザーを当てて削る方法があります。流し込みは大量生産向きで、レーザーは少量を短時間で作れるのが強みです。

材料にも、天然ゴムと合成樹脂のものがあり、それぞれ特性が違います。合成樹脂は繊細な加工ができるのですが、経年劣化しやすく、ドロドロに溶けたようになってしまうことがあります。一方、天然ゴムはきちんと保管していれば長持ちする(それでも木や角、石には劣りますが)反面、油分に弱く、朱肉を使うと溶けることがあります。

浸透印に比べると別途スタンプ台(スタンプインク)が必要で面倒に思われますが、利点は自由に色を変えられること。ゴムに付いたインクを綺麗にふき取れば、黒→赤→青なんてこともできます。

実印・銀行印

最もオフィシャルなハンコは、公的機関に登録してお墨付きをもらう“実印”や金融機関で口座開設の際に登録する“銀行印”です。

実印と銀行印は、長期間にわたってハンコ自体が破損や変形しない必要があるので、丈夫な材質を用いて作ります。象牙、牛の角、柘植つげ黒檀こくたんなどの硬い木、水晶などの硬い石、金属ではチタンがよく使われます。なおかつ、印面=文字を彫った部分のデザインは唯一無二であることが望ましいので、一人一人オーダーメイドが基本です。キタジでは、職人が文字を手書きし、彫刻刀で丁寧に仕上げています。

認め印

実印や銀行印に対し、どこにも登録していない印鑑は“認め印”と呼ばれます。オーダーメイドの製品から、広義にはシヤチハタネーム印のような浸透印も含み、日常的に使用するハンコです。「認め印、ただしシヤチハタ不可」という場面がよくありますが、これはどうやら長期保存する書類の都合のようです。朱肉は時間がっても色あせにくいのですが、浸透印のインクはだんだん薄くなったり変色したりするものもあるためです。

元々、認め印はサインで代用できる場面が多い上に、最近は役所の申請書などでも印鑑不要のものが増え、認め印を使う機会は減っています。しかし、よほど画数の少ない名前でない限り、サインを書くよりハンコを押す方が速くて便利、というのもまた事実です。

落款

書や絵画、陶芸などの作品に押す印鑑は“落款らっかん”と言い、落款を彫ることを“篆刻てんこく”と言います。(※正確には署名+印鑑で落款ですが、印鑑のみを指して落款と呼ぶことが多いです。)本来は作者がハンコも含めてトータルで作品として作るものですが、現代では専門家に彫ってもらうケースの方が一般的かもしれません。他のハンコと違い、几帳面でない遊びのある文字をデザインするのが特徴です。落款を押すと作品が2割増しで上手に見えるので、書道や絵手紙には絶対おすすめですよ。

饅頭まんじゅうや木製品に押す“焼き印”もハンコの一種と言えるでしょう。

このように、実は私たちの身の回りには、多種多様なハンコが存在するのです。