象牙 -Ivory-

印材としての象牙

印鑑(印章)職人は象牙の注文があると襟を正してから彫る、と言われるほど最高の素材です。象牙は耐久性や耐磨耗性が高く、手触りや捺したときの鮮明さなどにも優れ、印鑑に最適の素材と言えます。そのため、象牙こそ「印鑑の王様」と呼ばれているわけです。

また、象牙が、牛の角や木質素材と全く異なる特徴として、人間の歯と同じホーロー質である、という点があります。顕微鏡で見ると多孔質のスポンジ状をしているため、朱肉の吸着がよく、彫刻にも適しています。使い込むほどに光沢と色味が出てくる美しい質感も人気の秘密です。

なお、真っ白でない象牙は“黄ばみ”ではありません。アイボリーホワイト(ivory=英語で象牙の意味)という言葉があるように、淡いクリーム色がかった白が象牙本来の色です。朱肉の赤がだんだん染み込んでグラデーションになってくるのも象牙印鑑の“味”ですので、水洗いは絶対にしないでください。お手入れは、使用後にティッシなどで優しく表面を拭ってください。朱色が染みるのがお好きでない方には、この点だけが象牙のデメリットとなるかもしれません。

象牙にはハード材とソフト材によるランク分けがあります。ハード材はアフリカ東部に生息する象から採れ、硬さの中にも粘りがあり最高級といえます。ピアノの鍵盤にはこのハード材が使われます。当店の商品では象牙(上)がこれにあたります。一方、ソフト材はアフリカ西部に生息する象から採れます。当店の商品では象牙(中)と象牙(並)がこれにあたります。

象牙取引の現状

象牙の輸出入は「ワシントン条約」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によって原則禁止されています。現在、日本国内で流通している象牙は、ワシントン条約以前に輸入された物か、もしくは密猟によるものではないことが確認され例外的に少量の輸入が許可された物に限られます。近年はほぼ輸入されていません。

国内の法律では「種の保存法」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)において、1995年の改正で象牙取引に関する項目が追加され、象牙や象牙製品を扱う業者は届出を行うことになりました。さらに2018年の改正で、“特別国際種事業者”の登録制へと変更され、規制や罰則も強化されました。
象牙を商品として陳列・広告する際には、(1)登録番号 (2)事業者の正式名称 (3)住所 (4)代表者の氏名 (5)対象の種別 (6)有効期間 を表示することが義務づけられています。

《参考》経済産業省/「アフリカゾウの保全及び象牙取引に関する我が国の考え方と取組み」

外国人が日本国内で象牙製品を購入すること自体は違法ではありませんが、外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく手続きを経ずに日本から持ち出すことはできません。持ち出し禁止については日本人でも同じですので、ご注意ください。

印鑑のリメイク

年々流通量が減って希少価値が増している象牙ですが、祖父母の遺品などとして古い象牙印鑑をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。もう使わないから、と言って処分はしないでください。象牙印鑑はリメイクできます。印面(文字を彫った部分)を削って再度彫り直すことを“改刻”と言います。印面が欠けたり割れたりしてしまった印鑑を修理することはできませんが、欠けた印鑑を改刻して再利用することは可能です。

印鑑の彫り直しを検討される場合は、一度お店へその印鑑をお持ちください。象牙だと思っていても、実はよく似たマンモスの牙だった(それはそれで貴重品です)とか、偽物とまでは言いませんが、象牙を模した人工素材のイミテーションだった、ということが時々あります。一般の方が見分けるのは難しいため、プロに見てもらうと良いでしょう。

キタジの象牙印鑑は、職人が丁寧に文字を手書きし、手彫りで仕上げたオーダーメイドの商品です。そのぶん価格は高くなりますが、機械で彫っただけの印鑑とは違って高品質で長持ちします。実印・銀行印・認印の3本セットは、成人や就職祝いのプレゼントとしてもおすすめです。