自分の作品に落款を押そう!

落款とは「落成款識らくせいかんし」の略で、書道や絵画が完成したとき、作者の方が自分で作品に署名捺印なついんすること、または押した印影や印そのもののことです。以下、キタジの記事では、落款=印そのものでお伝えしていきます。

落款というと、石によく分からない字が彫られている、掛け軸に押してあったかも、敷居が高いなというイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

落款は、書道だけ、もしくはその道を極めた先生しか使っていけないわけではありません。自由に使っていいのが落款ですし、実際キタジでご注文いただくお客様は様々な用途をご希望で、ご来店されます。

1.用途

自分の作品だ!という印として使う

書道の方は勿論、作家として作品を販売している方のご注文も多く頂きます。印泥(落款を押す際に使用する専用朱肉のようなもの)で押すので、紙に押す用途の方が多いですが、中には、作品を入れてお渡し・保管する際の木箱に押すと言う方もいらっしゃいます。

自分のものだ!という目印・サイン

書道などに押す際は、“作品も印を押した人も同じ人で作者”ですが、落款の中で「蔵書印」という種類のものを押す時は、“本を書いたのは別の人で、今本を所有しているのは私だよ”という所有の証です。

某骨董鑑定番組に、落款が押してある品物が出てきて、鑑定士の方が、これは作者の印で、これは一人目の所有者の所蔵印(蔵書しるしの兄弟のようなもの。「書」を持っている時は蔵書印、その他は所蔵印。)で……と説明していることがありましたが、そういうことです。昔は蔵書印や所蔵印(「書」ではなくて、抹茶碗や茶杓などの箱の時もあります)を押してあることが、買い手にとって査定マイナスポイントではなく、その品物が本物かどうかを見極めるヒントになったわけです。

某有名日本アニメーション映画では、主人公の女の子が通っている学校の図書室で借りた本の最後に押してある蔵書印を見て、「この本の元々の持ち主は誰だろうか」と調べ、話が進んでいきます。話の中ごろで、本の元の持ち主は、じつは同じ本を度々借りていた同年代の男の子の祖父だったと分かる場面があり、改めて考えると、お祖父さんが、自分の持っている本一つ一つに丁寧に蔵書印を押していたからこそ、主人公の女の子の目に留まって、女の子と男の子が出会えたんだなあと感慨深くなります。(落款の話は別として、某アニメ映画は音楽と猫と本のボーイミーツガール青春もので面白いです!!)

蔵書印の楽しさ面白さは、蔵書印を押した人の手元にあるときはもちろん、そのあと、誰かの手に渡ったとき、一層増すのかもしれません。

話がちょっと逸れましたが、蔵書印または所蔵印が“私のものだよ!”というサインです。

お持ちの本やその他道具を頻繁に貸し借りされる方もお求めいかがでしょうか。

自分だけのマークとして使う

“私のものだ!”や“私の作品だ!”という意味からちょっと離れて、好きな言葉を好きな雰囲気で落款にして、好きな時に使う。ご自分の名前を使う時は勿論“自分だ!”という性格を持ちますが、読めるような読めないような字を、さらにデザインして作るので、絵やスタンプのように楽しんでらっしゃる方も多くいらっしゃいます。

絵手紙、手紙、年賀状、スケジュール帳、名刺、イラスト、絵画……。紙を愛する方、アナログを愛している方、皆様どうぞ!

ちなみに、落款は実印や銀行印には適しません。石はほろほろと崩れやすく、または柘植でも石で崩れた感じの雰囲気を模した形なので、“はっきりとした印影を登録しておく”実印や銀行印の理念とはちょっと離れてしまうからです。

そして実印や銀行印は、本人様の本名が入っていることが前提です。雅号をいれたものや、好きな言葉を入れたものは勿論登録できません。金沢市でも、「氏名以外の事項を表しているもの」は実印登録できません(2022年3月現在)。

実印や銀行印をお求めの方は、商品の実印銀行印のページを参照していただくか、ご来店時に店頭の者にお伝えください。実印・銀行印に適した素材をご紹介いたします。 しかし、実印に使えないからといって、落款が劣ったはんこというわけでは決してありません。単に用途と適正の違いです。落款を押した時の独特のにじみ、印泥の付け具合で、同じ落款を使っても印影が少し変わります。“印影のかたちが毎回かわり、にじみもかわってみえる”のが落款ですので、変わる様を面白さとして楽しんでいただき、趣味として、仕事のパートナーとして、日常の彩りとしてお使いいただければ嬉しいです。

2.印材

キタジでは、石と木(柘植つげという、通常の印鑑にも使用する植物。以下、柘植と表記します)2種類ご用意しております。

柘植

実際のお客様の注文状況は石と柘植1:1、半々ぐらいです。落款なのでやっぱり石がいいという方、押される作品に合わせて柘植にしたいという方色々な考えで買われていきます。

基本的に材料はキタジでご用意させていただきます。価格表も、材料費・デザイン費込みの価格となっております。改刻(ハンコのリフォーム)の項で少し触れていますが、持ち込みの石での落款作成は基本お断りさせてしており、どうしても持ち込みを希望される方は個別のご相談にて対応させていただきます。

ただ持ち込み石印材のお客様にご注意いただきたいのは、落款の場合は、持ち込まれたから通常印鑑の改刻のようにお安く提供できるという商品ではありません。落款の石も様々で、学校の高校美術の授業で彫る安価なものから、側面に彫りがあり、てっぺんに飾りのように彫りがある高価なものまで多種多様です。側面などに彫りがあるものはそもそも改刻が難しく、またどうしても経年劣化している石なので、新しい印材以上に削れ具合を見ながら整えていく手間がかかるためです。

落款に使用する石は様々な種類がありますが、総じて言えるのは職人が「かたくてやわらかい」と表現するように、彫ったらほろほろと崩れる性質です。

一個の石を彫り進めていても、硬い部分と柔らかい部分が混在していて、熟練の職人でも硬さの違いの見極めはなかなかできません。その石の中で、柔らかい箇所と硬い箇所がどのように分布したどんな石なのかは彫ってみてはじめて分かります。実際に彫刻刀で彫ってみて、やわらかいところ、かたいところに不意に刃が入り、がりっと想定外の箇所に刃が跳び落款特有の字のとぎれやふちのぎざぎざになっていきます。

落款の校正のこと

キタジでは、落款も通常木口も版下(はんこのデザイン)を手書きで製作しているため、校正(デザインの紙出し確認)をお出しするときも、鉛筆書きのものです。職人が鉛筆書きしたものを、機械でコピーして、所定の用紙に貼り付けています。

ただ、落款の校正の場合、お客様から「鉛筆書きの細い線だと、落款のにじみやとぎれが分かりにくい」という声を多数いただきました。そこで、鉛筆書きの線を校正用にパソコンに取り込み、お客様に落款のイメージが掴みやすいよう印刷で出しております。手仕上げゆえの注意点いくつかございますので、ご確認ください。

*ご注意事項*

  • 1本ずつ手仕上げでお作りしているため、実際作成した際に、校正と字や枠の雰囲気が多少変わる場合がございます。落款の場合、使用する石が「かたくてやわらかい」と職人が表現するように、刃を入れた箇所がほろほろと崩れる性質があります。落款の独特のにじみやとぎれのような風合いの出来になります。
  • 今落款の校正として出しているにじみやとぎれは、職人による“こう彫ったらこうなるだろう”という予想に基づくものですが、熟練の職人でもどこで欠けそうかなかなか予想しきれないのが、落款の難しさで面白さですので、校正はあくまでイメージとして参考にしていただき、校正と実際の品物との差は落款の良さとしてお楽しみください。
  • 何種類かデザイン案をお出ししますが、落款の字の組み合わせは“時代を合わせる“きまりがありますので、「Aの○の字と、Bの■の字を組み合わせてほしい」というご希望には添えない場合がございます。
  • 白文・朱文問わず、外側からのかけを作らせていただきます。

3.使われている字

落款を彫るとき、字は基本、通常印鑑の注文でも使われる「篆書てんしょ」を使っています。(蔵書印の場合は、より読みやすいようにと、「古印体」で最近作られる方も多いです。書体の説明や書体見本は「書体」の項へどうぞ)

篆書は一言でいってしまうと、中国で昔使われていた文字のことです。古くは亀の甲羅に刻まれた甲骨文や金文、続いて秦の始皇帝が文字統一をした小篆、その後の文字の印篆も全部含んでまるごと篆書と呼んでいます。

落款の決まりごととして、“一つの落款のなかでは、同じ時代の字を使わないといけない”というものがあります。この形が好きだからといって、Aの時代の字とBの時代の字を組み合わせようというのはしてはいけません。A時代B時代並べても雰囲気が違っていて印影を押して見た感じもおかしくなってしまいます。

また時代の話とは違いますが、字と字の組み合わせのとき、同じ時代であるだけでなく、並べた時により雰囲気が合うまたは格好がつく組み合わせというものが存在します。何万とある字の組み合わせは、やはり専門職として長年字に触れてきた職人だからこその感覚で判断して選びます。

あと落款の字の一番の醍醐味は、遊びのある字を印にできることです!

通常、印鑑の篆書は、各役所や銀行の方に見ていただく前提の印鑑ですので、きっちりかっちりとした字形のものを選びます。しかし、落款は遊びを楽しむ、動きを楽しむ印ですので、字として許される最大範囲内で遊びます。

落款もはんこの一種ですので、“字として成立していなければならない”というルールがあり、好き勝手に字の線を曲げたり伸ばしたり傾けたりしてはいけません。

弊社社長がよく「鳥は鳥のように書く」と言いますが、字が絵に見えるように、と言ったら大げさかもしれませんが、それぞれの表す形をめいっぱい生かして書きます。

その字が象形文字なのか会意文字なのかなどで、実際のものに形を似せれるかが変わってきますが、会意、意味するカタチで組み合わされた字も分解すると象形文字同士だったりするので、個々に気をつけて書きます。

例えば「休」の字は会意文字ですが、イ(=ひと)が木(=き)によりかかってやすむ様子から作られた字です。「人」も「木」もそれぞれ象形文字です。「人」の篆書のかたちは、立って地面に向かって、腕は伸ばし腰を曲げて前屈するような姿です。

落款として文字を遊ばせるにしても、字の中の人をバキバキに骨折させてはいけませんし、木も切って釘で打って繋いでなんていう不自然なことにしてはいけません。

あくまでここで言っている「人」や「木」は篆書成立当初の現地の一般的な人や木を想定しているので、人が実はヨガを極めた人だったとか、木が変わった種類だったとかは無しです。あとは字としての決まりの中で動かします。絵として篆書を眺めたときに、別にこう動かしても人は骨折しないんじゃないか?と思う角度ややり方があるかもしれませんが、そこは数多くある字に共通した、一貫した決まりの中で動かすので、そんなものなんだなと思っていただければ嬉しいです。

「鳥」は象形文字なので、篆書の形が本当にそれぞれの形に似てます。

キタジでは熟練の職人が、字の時代をそれぞれ合わせて、字の見た目の雰囲気も全体として調和がとれるように作らせていただきます。

4.印面の字の内容

落款の内容は様々で、姓名や詩句、跋語(ばつご。自分で書かれた本や書画の末尾に記す文。あとがきのこと。)、雅号(書道、華道、茶道などをされている方が、ある程度まで修めたとき決める、本名とは別の名前。)を入れたりします。

自分の本だという目印に押す蔵書印は、「○○蔵書」となり、例えば石川太郎さんの持っている本に押されるなら、「石川蔵書」もしくは「太郎蔵書」となります。

キタジに来られたお客様の中に、ご家族で既に蔵書印をお持ちの方がいて、その方が苗字で「■■蔵書」と作ってらっしゃるので、自分は下の名前で「△△蔵書」にするという方がいらっしゃいました。

落款は銀行印や実印ではないので、例えば花子さんが「はなこ」とひらがなで作ってもいいですし、「茉莉」など別名で作って楽しんでもいいわけです。

お好きにどうぞ!

5.大きさ・形・種類

ご注文いただける落款の種類

好きに作っていい、好きに使っていいのが落款です。絵葉書につかう、手紙に押す等注文時に用途をおっしゃっていただけると、作字の際に用途に合わせて雰囲気を変えてお作りします。ご注文時に「○○に落款を使いたい」とお伝えください。

また書道などされている方で、「■■という種類の落款を作りたい」という方はそのまま店頭などでお伝えください。

こんな種類の落款が作れるのか? あるいは落款の種類ってどんなのがあるの? と興味のある方は以下を参考にどうぞ。

  • 姓名印:姓名(フルネーム)を彫刻したもの。白文(文字が白くなるよう彫ったもの)で作ることが多いです。
  • 雅号印:雅号を彫刻したもの。朱文(文字以外が白くなるよう彫ったもの。通常印鑑ではこちらが主です)で作ることが多いです。雅号を持っていない方は、名(ファーストネーム)だけで彫ります。
  • 関防印(または引首印):作品の書き出し、右上の位置に押す印。お好きな言葉で作りますが、『荘子』や『論語』などの用語を使われる方も多いです。長方形型などが多いです。
  • 押脚印:作品の右下の位置に押す印。作品の下限、この作品の一番下はここですよの目印として押されます。掛け軸ひとつで完成する一幅物は右下に押しますが、対幅作品の場合、左に押したりします。
  • 連印:名前などを1字ずつ分割して彫り、2つの印を並べて押すもの。
姓名印
雅号印
関防印
押脚印
連印
蔵書印

石・柘植ともに基本正方形型で注文お受けしています。
関防印のように長方形型の場合は、長い方の辺で標準価格に+5,500円(税込)となります。
連印など2本でひとつのものを作られる場合は、各1本ずつ計2本分のご注文としてお受けします。

  • 篆書・古印体
  • 朱文・白文
  • 石・柘植
  • 漢字・ひらがな

書体や材質による価格の違いはありません。

※9㎜以下の印材は、1字まで、かつ白文しか彫刻できません。12㎜以下の印材は、2字までしか彫刻できません。基本4字まででご注文お受けしていますが、5字以上ご希望の方はご相談ください。
10字~20字ご希望の方には、にじみのあるような字の落款では適しない場合ございますので、柘植の法人角印の篆書をおすすめしています。

法人印か落款、どちらがご希望用途に適しているか悩まれた場合は、お気軽に店頭やお電話、メールにてお問い合わせください。

お気に入りの落款を作ったら、朱肉(印泥)にもこだわってみませんんか?
色味の違う6種類から選べる新商品 ヒシエム練朱肉-irodori- がおすすめです。